標 (しるべ)
もしも。もしも、うねる波濤(はとう)にあなたの行路(こうろ)が、 あなたのこころが千々(ちぢ)に乱れて、ついに挫(くじ)けそうなとき、 わたしはここに灯(とぼ)したい、ほおずき色の燈火(ともしび)を。 黒い波のあいまにのぞく、標(しるべ)たる陸(おか)のあかり。 無垢なあなたの希望を護(まも)る、やわらかな温(あたた)かな故郷のあかりを。 切なる希(ねが)いを胸のうちに、あなたがたどる人生という、かけがえのない遥かな旅路。 いつか蒼い砂の丘を、凍(い)てた風がふきつけて、途(みち)も星もみえなくなる。皮膚を熱がみるみる離れて、こえもかかとも震えだす。すると、わたしはわたしを脱ぎ捨て、あなたを覆(おお)う衣(ころも)でありたい。 あなたの側(そば)で凍(こご)えながら、しののめの光をともに待ち焦(こ)がれよう。 - 三橋 琢 - |